1年生で初投稿した壮大なSF作品で、いきなり、いずみ文芸賞の2席に入賞した渋田万由子さんにインタビューしたところ、いつの間にか文学のヨロコビについて、すっかり意気投合してしまいました。
2023年 3月10日 在学生インタビュー:渋田万由子さん 聞き手:斉藤悦子
司会:渋田さん、いずみ文芸賞で2席入賞、おめでとうございます。
渋田:ありがとうございます。
司会:1年生でいきなり2席は大快挙ですね。かなりスケールの大きいSF作品で、構成力に驚きました。なんでもない日常の風景のように始まって、どんどん近未来が展開する。人物造形も巧みで、分量も本格的でした。この文芸賞のことは前から知っていたのですか?
渋田:いえ、入学してから初めて知って、友達と、一緒に応募してみようか、と話し合って、取り掛かったのですが、でも、締め切りが近づくと、間に合わなくなってしまって、友達は断念したのですが、私もギリギリで、もう、徹夜で朦朧としながらキーボードを叩いていました。なので、ラストがもう、なんだかわからなくなる感じでした。
司会:ああ、文芸賞「あるある」ですね。私も審査員をしたことがありますが、ものすごく描きこまれていた作品が唐突に終わることがあって、「え?どうして?」と思うと、時間切れ、なんですね。それでもよくぞまとめました。1席と2席は「清泉文苑」に全文掲載されますから、作家デビューですね。
しかも、まだ卒業までに3回応募できます。
渋田:頑張ります!
司会:渋田さんは私の文学入門の授業もとってくれて、いつも瑞々しいリアクションをたくさん書いてくれるので印象に残っています。
渋田:先生の文学の授業はとても楽しくて、好きでした。今も、ほら、授業で紹介された本を借りてきて読んでいるんです。
司会:わあ、本当だ。ありがとうございます。楽しかった、と言ってもらえると、教員はすごく励みになるんですよ。
渋田:元々本は好きで、どこの国の文学だ、ともわからないまま、色々読んでいたのですが、大学生になって、ああ、あれはアメリカ文学だったんだ、とか、フランス文学だったんだ、とかわかってきて、授業を受けると、ただ作品としてあったものが、どういう背景の中で生まれてきたのか、ということもわかって、すごく面白かったです。フランス文学は愛と死がテーマになることが多いな、と思ったり…
司会:そう。そして、アメリカ文学は、男が男と旅に出るんだよね。
渋田:そうそう。お国柄もありますよね。本を読むのはとても好きなのですが、でも、実は、小さい頃は国語が苦手で、小学1年生の国語のテストは散々で、どうしようか、と思いました。
司会:もしかすると、それは、渋田さんが作家性のある方だからかもしれませんよ。小学校1年の国語の問題は、書いてあることを右から左に読み取ったかどうかを確認するような問題で、作家性のある子は逆に深く考えすぎて正解が出ないんですよね。清水義範の『国語入試問題必勝法』って読んだことあります?受験勉強する高校生がスーパー家庭教師に国語入試問題の必勝法を教わって、点が取れるようになればなるほど国語力が落ちていく、という話です。
渋田:なんか…すごく感銘を受けます。わかる、わかる、その感じ、と言うか…、小さい頃に本を見ていた時のあの感動が、だんだん国語の問題を解く時に、「ああ、こう答えればいいのか、これがここになるのね」って、答えを探すようになっちゃって、でも、何か、答えじゃないんだよな、探したいのは、と思って。答えじゃないの。ただ読みたいの。点数つけないでほしいの、って毎回思うんですよ。
司会:そうだよね。この本を読むと、きっと、これまで感じてきたわだかまりが腑に落ちると思いますよ。
渋田:小さい頃は、伝えたいことがすごくあって、でも、それを具現化できないから、ああ、伝えたいのに、ってもどかしい。うまく言葉にできない。家族も、この子はワーッとしゃべっているけれど、何を言いたいんだろうか、って、思っていたようです。でも、そういう、湧き上がってくる何かが、本当に伝えたいものとして存在するんですよ。
司会:わかります。人間の感覚や感情ってそういうものですよね。人文学って、つまり「人間理解」の学問なのですね。でも、人間って、タイプAとか、にわけられない、すごく複雑なもので、状況次第で変化する。思う気持ちが強いからひどいことをしてしまったり、悲しいのに笑ったり。だから、物語というシチュエーションの中で描くしかないんだな、と思うんです。アリス・ウォーカーという作家が、人類の誕生と同じくらいの時期に、もう物語があった。それからずっと経っても今まだ物語があり続けるのは、人間にとって、なくてはならないものだからじゃないのか、と言っています。SNSで表層的に判定されるような機会が多い昨今、人間を深く理解する学問が廃れると、人間は不安定になってしまいそうです。
渋田:そう思います。AIがすごくいろいろなことができるようになっても、なんか違う感じがします。こんな例えは変かもしれませんが、もしも地球が人間だったら、きっと趣味は文学だと思うんですよね。
司会:なるほどね。地球が、口がきけたら、「私は文学が読みたいんだ」って言うかもしれませんね。
渋田:先生の研究室にはたくさん本がありますが、またお薦めの本を借りに来ていいですか?
司会:もちろんです。いっぱい読んで、また構想を膨らませて、意欲作をどんどん文芸賞に応募してください。楽しみにしています。 今日はありがとうございました。
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